歴史に学ぶ「自校史教育」
立教大学
2024/09/09
トピックス
OVERVIEW
大学の建学の精神や歴史を通じて、自らが学ぶ学校への理解を深める自校史教育。
立教大学では全カリ※1(全学共通科目)の草創期から自校史教育の科目を開講し、授業テキストの刊行や、立教学院史資料センターによる研究成果のフィードバックなど、科目内容を拡充してきました。
立教大学の歩みとダイナミズムを感じる教養教育
左から岡部教授、西原総長、豊田さん
自校史教育は自己を位置付けるための教養教育
豊田 立教大学の自校史教育は、1997年度の寺﨑昌男※2教授の試みに端を発します。大学創立の背景や歴史についての講義をした際に「学生は自分が所属する大学のことを知りたがっている」と感じられ、独立した科目として開講することになったのです。自校史教育というと大学への帰属意識や愛校心を高めるための教育だと思われがちですが、正課科目として開講する以上は学問的な視点が必要です。開講当初も議論がありましたが、自校史教育とはつまり「歴史教育をベースにした教養教育」だと言えるでしょう。大学について深く知り、歴史観を形成しながら、立教大学で学ぶ意味を考えるきっかけを提供する科目だと考えています。
西原 自校史を学んだ先には「大学とは何か」という問いがあります。修道院におけるアカデミアがオックスフォード大学やケンブリッジ大学に引き継がれ、本学においても建学の精神やキャンパスデザインなどに色濃く反映されている。そのような時間と空間を超えた学問史?大学史のダイナミズムの中に立教があり、自分も存在している。学生にはそうした自覚を持った上で「学問とは、大学とは何か」を考えてもらいたいですね。
※2 寺﨑昌男:名誉教授。立教学院一貫連携教育の推進や全カリの立ち上げに携わった。
自校史教育科目の変遷
- 1997年度 寺﨑昌男教授が授業内で大学創立の背景や歴史についての講義を行う
- 1999年度 「立教大学を考える」開講
- 2001年度 「立教大学の歴史」開講
- 2002年度 「立教大学の歴史」の科目担当が立教学院史資料センターとなる
- 2003年度 「立教学院と戦争」開講
- 2005年度 全カリの科目群「立教科目」が文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」採択
- 2006年度 授業テキスト『立教大学の歴史』刊行
理念をつないだ立教人
チャニング?ムーア?ウィリアムズ
- チャニング?ムーア?ウィリアムズ アメリカ聖公会の宣教師として日本に派遣される。日本聖公会初代主教。1874年、東京?築地に立教大学の前身となる私塾を開いた。
- ジョン?マキム 1880年に来日後、立教学校で教鞭をとった。1893年、ウィリアムズの後任として日本聖公会主教となり、同時に立教学校の後継設立者となった。
- アーサー?ロイド 1884年来日。1897年より立教学校(当時)総理を務めた。政府による宗教教育禁止政策に対し、寄宿舎を中心に、立教学院全体でキリスト教教育を維持していくという方針で乗り切った。
- ヘンリー?セントジョージ?タッカー 1899年に来日し、1903年に立教学院総理となる。当時築地にあった大学の校地移転を考え、池袋に土地を求め、今日の立教大学の基礎を築いた。
歴史の負の側面から学べること
豊田 『立教学院百二十五年史』の編さん時に、戦時下の資料が不足していることを痛感しました。何人の学生が出征し、どのくらい亡くなったのか、基本的な情報すら分からなかったのです。その後、学院史資料センターの研究プロジェクト「立教学院と戦争に関する基礎的研究」が発足しました。研究で得られた新たな史実などを学生にも伝えるべく、「立教学院と戦争」を開講しました。
戦時下の歴史についてまとめた『ミッション?スクールと戦争』『立教学院百五十年史』(第1巻)など、研究成果が書籍化されている
西原 立教は戦争に対してどう向き合ったのか。本学の戦争責任に関わる問題も含めて今の学生には考えてもらいたいですし、未来をつくるために必要な視点を学び取ってほしいと思っています。
学徒出陣について学生に語ったこともあります。2010年にアメリカで「立教大学」と書かれた日章旗が見つかり、調べると当時の経済学部の学生のものだと判明しました。70年以上の時を経て、その学生の思いや生きた証が、今を生きる私たちのもとへ届いたのです。二度と大切な学生を戦地に送り出さないという決意をもって、私たちは自校史教育を行っています。同時に、学生には平和や命、戦争の問題に向き合ってほしいです。
岡部 同じキャンパスで学んだ先輩が戦争で亡くなったという事実を共有できたことが重要なポイントですね。自校史教育は学生だけでなく、教員にとっても大切な意味があると感じます。負の側面も含めて立教の歴史をきちんと認識し、教員も学びながら学生に伝えていくことが、一つの目的ではないでしょうか。
西原 建学の精神を表す「PRO DEO ET PATRIA」も、戦中は「神とお国のために」と間違った解釈をされてしまいました。戦後、反省を踏まえて再定義したわけですが、そういった歴史からも学べることは多くあります。
建学の精神とオフィシャル?シンボル
立教大学の建学の精神を表す言葉。直訳すると「神と国のために」というラテン語だが、立教では「普遍的なる真理を探求し、私たちの世界、社会、隣人のために?と捉えている。
オフィシャル?シンボルの内側、楯のマークには「立」の文字、その下に十字架と開かれた聖書が描かれており、聖書にはPRO DEO ET PATRIAと記されている。
過去を知り、現在を知り、立教大学で学ぶ意味を考える
岡部 1年次生が中心ですが、意外と4年次生の学生の履修が多いんです。卒業前に改めて建学の精神や歴史を学びたいと考える学生が少なくありません。私が彼らに期待するのは、「立教で学ぶ意味」をしっかりと考えてほしいということです。文学部や経済学部などは他大学にもありますが、たとえ同じテーマを学んだとしても、学んだことをどう活用するのか、社会にどう貢献していくのかという視点が重要です。立教の場合は、良き隣人?良き市民を育成して社会へと送り出してきた歴史がある。そのことを学生には理解してもらい、自身の学びを意味付けしてほしいと願っています。
豊田 たしかに、150年という長い歴史に触れることは、現在、そして自分を知ることにつながると思います。
西原 編さん中の『立教学院百五十年史』は、学生や教員が「立教で学ぶ意味」を考える際に立ち返る羅針盤のようなものになるでしょう。そのためにも、学院史のアーカイブスの機能と外部へ発信する展示館の機能の充実化が欠かせませんね。
岡部 通史の編さん事業によって、立教の歴史はどんどん書き直されてきました。自校史教育科目の授業内容も、それに合わせて年々変化しています。立教学院史資料センターと立教学院展示館が連携し、教育研究の深化と、情報発信のさらなる充実化に取り組んでいきたいと考えています。
西原 廉太
立教大学総長
立教学院展示館館長
文学部キリスト教学科教授。専門は、アングリカニズム、エキュメニズム、組織神学、現代神学。キリスト教学校教育同盟第28代理事長
岡部 桂史
経済学部教授
立教学院史資料センター長
立教学院展示館副館長
2005年大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程
修了。2015年立教大学経済学部経済学科に着任。
2019年より現職。専門は、日本経済史?日本経営史
豊田 雅幸
立教学院展示館学術コーディネーター?学芸員
2002年立教大学大学院文学研究科史学専攻博士
後期課程満期退学。文学部史学科助教を経て、
2014年より現職
立教学院史資料センター
立教学院展示館
全学共通科目「立教大学の歴史」
- 立教の沿革史を学ぶ
- 日本近現代史のなかの立教大学
- 日本近現代史における立教大学
- 「立教」を創り育てた人びと(英語開講)
授業テキスト
※本記事は季刊「立教」269号(2024年7月発行)をもとに再構成したものです。バックナンバーの購入や定期購読のお申し込みはこちら
※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。
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